高血圧とは
高血圧症とは、血圧が恒常的に高い状態をいいます。繰り返し測った血圧が正常値より高い状態です。収縮期血圧(上の血圧)が140mmHg以上、または拡張期血圧(下の血圧)が90mmHg以上の場合、高血圧症と診断します。
自覚症状がないため、未治療の高血圧の患者様は約2,000万人いると推定されています。高血圧になるリスクは、環境や状態によって左右されますが、早期発見・治療が重要です。健康診断で血圧を測定するのが一般的ですが、自己測定器を購入することもできます。血圧が125/75mmHgを超える場合は、早めに医療機関を受診することが望ましいです。
高血圧症の原因
高血圧症の症状
高血圧症を放っておくと
高血圧症を放置すると、血管壁に圧がかかり内膜を傷付けてしまいます。動脈硬化が進行しやすくなり、心臓が肥大化・繊維化してしまい、心不全を発症することがあります。
また、腎機の糸球体濾過圧の上昇によって、蛋白の再吸収や老廃物のろ過など本来の役割が果たせなくなり、腎不全になることもあります。動脈硬化が進行すると心筋梗塞や脳卒中といった重篤な疾患を引き起こすリスクが高まります。
最悪の場合は命に関わることもあり、脳卒中や心筋梗塞で死亡する患者様の約5割が、高血圧症が原因であるというデータもあります。症状がなくても、定期的な検査を実施し、早期発見・早期治療を心掛け、健康な生活を送ることが大切です。
高血圧症の治療
高血圧症治療の目的は、高血圧による臓器障害の進行を予防することです。
血圧を適切にコントロールすることで、脳血管疾患を35-40%、心筋梗塞を20-25%、心不全の発症を50%以上低下させることが示されています。2019年に発表された高血圧治療ガイドラインでは、目標値が従来の140/90mmHg未満から130/80mmHg未満へと下げられ、より厳格な血圧コントロールが求められるようになりました。
最初の目標は130/80mmHg以下であり、最終的には125/75mmHg以下を目指します。高齢者は、過度の降圧によって脳心血管イベントを誘発する可能性があるため、厳密なコントロールが求められる一方で急がずに緩やかに降圧していく必要があります。
血圧は診察の際に必ず測定しますが、それ以上に家庭での血圧が重要です。診察室での血圧と家庭での血圧に違いがある場合は、家庭での血圧を優先します。
高血圧の治療は非薬物療法と薬物療法があります。薬物療法を行う場合でも、非薬物療法すなわち生活習慣の改善が重要です。生活習慣で改善すべきポイントは4つ。塩分制限(6g/日)、減量(BMI25未満)、運動(30分/日)、禁煙です。この中でも減量と運動の効果が特に大きいです。
薬物療法では降圧薬を使用します。降圧薬は作用機序によっていくつかの分類があり、第一選択薬となっているのはカルシウム拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、利尿剤の4種類です。この4種類のうちから2−3種類を併用することが多いです。治療開始から3ヶ月ほどで血圧が安定してきます。3種類でコントロールできない場合は更に他の降圧薬を追加することを検討しますが、二次性高血圧の可能性を考えます。
降圧薬
カルシウム拮抗薬
代表的なくすり
アムロジピン(ノルバスク、アムロジン)、ニフェジピン徐放剤(アダラートCR)
説明
末梢血管を拡張させることで血圧を下げます。降圧効果が確実で副作用も少なく多くの症例で第一選択薬として使用されます。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)
代表的なくすり
エナラプリル(レニベース)、イミダプリル(タナトリル)、ペリンドプリル(コバシル)
説明
血圧を収縮させるホルモンであるアンジオテンシンⅡの生成を抑え、降圧作用を発揮します。降圧効果は比較的マイルドです。心不全や糖尿病、腎疾患の合併を改善する作用があります。副作用としては空咳が有名です。妊娠中の女性には使用できません。
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)
代表的なくすり
バルサルタン(ディオバン)、テルミサルタン(ミカルディス)、アジルサルタン(アジルバ)
説明
アンジオテンシンIIの働きを阻害することで血圧を下げます。ACE阻害薬同様の臓器保護作用があり、降圧効果も強いです。副作用がほとんどないため広い症例で第一選択薬として使用されます。妊娠中の女性には使用できません。
利尿剤
代表的なくすり
ヒドロクロロチアジド、トリクロルメチアジド(フルイトラン)
説明
腎臓でナトリウムと水の排泄を促進して循環血液量を減少させることで降圧効果があります。減塩と同様の作用があり、他剤と併用する場合の相性が良いです。脳血管疾患・心不全を予防する効果があります。副作用である低カリウム血症には注意が必要です。
β遮断薬
代表的なくすり
カルベジロール(アーチスト)、ビソプロロール(メインテート)
説明
心臓からの血液の拍出量を抑えることで血圧を低下させます。降圧薬としては第一選択薬として使用されませんが、心臓の保護効果があるため心不全の治療薬として主に使用されます。
α遮断薬
代表的なくすり
ドキサゾシン(カルデナリン)
説明
末梢血管を拡張させることで降圧効果を持ちます。第一選択薬としては使用されず、治療抵抗性高血圧に他剤と併用することがほとんどです。副作用として起立性低血圧に注意します。
抗アルドステロン薬
代表的なくすり
アルダクトン(スピロノラクトン)、エプレレノン(セララ)、エサキセレノン(ミネブロ)
説明
腎臓でナトリウムと水の排泄を促進して循環血液量を減少させて血圧を下げます。心臓や腎臓を保護する効果があります。ACE阻害薬・ARBやサイアザイド系利尿薬としばしば併用され、治療抵抗性高血圧に有効なことがあります。アルダクトンは女性化乳房・勃起不全・月経痛などの副作用が懸念点でしたが、エプレレノン、エサキセレノンでは副作用が少なくなりました。
新薬サクビトリルバルサルタン(エンレスト)
心不全治療薬として新たに登場したサクビトリルバルサルタンが高血圧症にも適応が通り注目を集めています。ARBであるバルサルタンにサクビトリルが付加された薬です。サクビトリルは、血圧を下げるホルモンである「ナトリウム利尿ペプチド」の働きを強め、従来のARBよりも強力な降圧作用と臓器保護作用が期待されています。
高齢者は、お薬の代謝機能が低下しているため、治療は様子を見ながら徐々に増やしていくことが理想です。
治療効果を確認するために、診察室だけでなく家庭で血圧を測定し、血圧のコントロールを継続的に行うことが重要です。
治療の流れ
1. 初診 (初回の相談を受けます)
検査の際には、必要に応じてレントゲン、血液検査、心電図検査、身長・体重測定などを実施します。
これらの検査によって合併症の有無を確認することができます。
2. 再診1回目 (1週間後)
検査結果から得られた情報をもとに、初期診断と治療方針について共有いたします。
3. 再診2回目 (約2週間後)
お薬の初回効果の判定と、必要があれば心臓のエコーを実施します。腹部エコーで大動脈瘤の有無を確認することもあります。
4. 再診3回目 (約2週間後)
お薬の調整を実施します。
5. 再診4回目 (約2~3週間後)
お薬の第2次効果判定を実施し、80%の方が血圧のコントロールは完了します。さらに、頸動脈エコーの検査結果より、高血圧による動脈硬化の状態を把握し、年に一度の経過観察を通じて、より適切な治療方針を決定します。
定期診察 (基本的に月1回の診察)
必要な検査を行いながら、体重増減や血圧の確認を通じて、健康的な生活のための指導と評価を行います。病気を予防するためのコーチングを提供し、心筋梗塞、心房細動、脳血管動脈疾患、大動脈瘤の発症をゼロにすることを目指します。当院が提供する専門的なアドバイスを活かし、患者様自身、そしてご家族が健康な人生を送れるようにしましょう。
生活習慣の改善
高血圧症の原因の一つに、塩分の過剰摂取があります。成人では6g/日未満を目標とし、食事制限が必要です。また、肥満がある場合には、適度な運動と塩分制限だけでなくバランスの良い食事で減量を行いましょう。
運動は血管の拡張やインスリン抵抗性を低下させるのに有効で、血圧を下げるのに重要です。毎日続けられるようにウォーキングなどの軽い有酸素運動を続けていくことがお勧めです。喫煙やアルコールも、血圧上昇の原因となるため、適度な飲酒と禁煙が必要です。
また、ストレスや睡眠不足も高血圧の原因となるため、リフレッシュする方法を考えながら、日常生活でできる範囲内での治療を進めましょう。
まとめ
当院では生活習慣改善のポイントや、薬物療法を開始するべきか、どの薬剤を使用していくかなど、患者さんと一緒に意思決定をして適切な血圧コントロールを目指していきます。