脂質異常症(高脂血症)とは
脂質異常症をご存じですか?健康診断で「脂質異常症」と指摘されたことがある人も少なくないかと思います。脂質異常症とは、中性脂肪が150mg/dl以上、LDLコレステロールが140mg/dl以上、HDLコレステロールが40mg/dl未満のいずれかの場合に診断される疾患です。自覚症状はありませんが、健康診断で異常が指摘された場合は治療が必要です。原因として、肥満、運動不足、喫煙、過食、ストレス、アルコールの飲み過ぎが考えられますが、遺伝・体質によるところが非常に大きいです。
そのままにしておくと動脈硬化が起こり心筋梗塞や脳卒中などのリスクが高くなる原因となります。
脂質異常症を放っておくと
血液中の脂質が増加した状態のことで、わかりやすく言えば「血がドロドロ」の状態です。血がドロドロの状態をそのままにしておくと血管に脂肪などがたまっていき、血管が硬くなったり血管内が細くなったりします。これを動脈硬化と言います。
動脈硬化が起こると血管は破損しやすくなり脳出血などの出血イベントが増え、血管内が脂肪などで細くなったり、閉塞したりしてしまうと心筋梗塞や脳梗塞など生命にかかわる病気に直結します。脳卒中は麻痺や認知能力の低下、うまくしゃべられなくなるなどの後遺症があり、今後の生活に影響します。
脂質異常症そのものは無症状のため「大丈夫」と思われる方も少なくありません。進行してしまって手遅れになる前に、できるだけ早く対策や治療を行う必要があります。
脂質異常症の診断
健康診断では血液検査を行います。脂質異常症は血液検査データから分かりますので、お手元に健康診断表がある場合は確認してみて下さい。
脂質異常症の診断指標となる指標は以下の3点です。
- 中性脂肪(トリグリセリド;TG)が高い(150mg/dl以上)
- 悪玉コレステロール(LDLコレステロール;LDL-C)が高い(140mg/dl以上)
- 善玉コレステロール(HDLコレステロール;HDL-C)が少ない(40mg/dl以下)
これらに当てはまるからと言って、必ずしも「すぐに治療を受けなければならない状態なのか」というとそうではありませんが、重大な合併症につながる可能性があるため必ず医療機関を受診しましょう。
脂質異常症は生活習慣の乱れにより悪化します。次に脂質異常症の原因となる生活習慣について紹介していきますので、ご自身の生活はどうか、当てはまってないか考えてみましょう。
脂質異常症の原因
脂質異常症は生活習慣病の一つで、普段の生活に影響されます。大きな原因として以下の3点が挙げられます。
- 食生活
- 運動不足
- 飲酒・喫煙
食生活
運動不足
運動不足は摂取したカロリーを消費できず肥満の原因になります。肥満になると余分なコレステロールを運んでくれる善玉コレステロールが少なくなり、脂質異常症の一因となります。
飲酒・喫煙
多量のアルコールは中性脂肪が増える原因になります。また、喫煙は中性脂肪や悪玉コレステロールを増やし、善玉コレステロールを減らしてしまいます。
以上のような生活習慣が主な原因となりますが、遺伝・体質も大いに関係し、健全な生活習慣を持っていても脂質異常症と診断されるケースは稀ではありません。
この他にも、ストレスや家族性高コレステロール血症(遺伝性疾患)が原因となることもあります。
脂質異常症の治療
脂質異常症の治療 〜生活習慣の改善〜
脂質異常症の治療は生活習慣の見直しと薬物療法です。まずは生活習慣の見直しを行い、改善に乏しい場合に薬物療法を行います。薬物療法を行う場合でも生活習慣の改善が必要です。
生活習慣について、上で挙げた①食生活、②運動、③飲酒・喫煙、に分けて説明していきます。
食生活
原因となる食事を控えるのはもちろんのことですが、野菜やキノコ、海藻類などの食物繊維が豊富な食品を摂取することで、コレステロールを体の外に出してくれる働きがあります。
特に水溶性の食物繊維である大麦、昆布やわかめ、こんにゃくなどはおすすめの食品です。
ビタミンやポリフェノールに含まれている抗酸化物質を含む食べ物を摂取すると、悪玉コレステロールが血管内に付着するのを防いでくれる働きがありますので、積極的に摂取しましょう。
運動
一日30分(分けても良い)、ウォーキングや水泳、早歩きや自転車などの有酸素運動が良いとされています。
公共交通機関を利用している方は、乗り降りする駅を一つ先にして歩いてみる、階段がある会社に勤めている方はエレベーターを使用せず階段であがるようにするなど、少しずつ取り入れてみるだけでも変化があります。
家の中で手軽にできることとして踏み台昇降やヨガがありますので、自分に合った運動方法を取り入れてみましょう。
飲酒・喫煙
過度な飲酒はコレステロール増加の原因となりますが、適度な飲酒であれば問題ないことがほとんどです。目安はビール瓶1本、日本酒1合、チューハイ350ml1本です。
喫煙は呼吸器系や全身の血管に悪影響を及ぼすだけでなく、脂質異常症を悪化させる一因となります。
脂質異常症の治療 〜薬物療法〜
スタチン
スタチンを主剤としたLDLコレステロール低下療法で、脳卒中や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患を30%程度抑制できます。スタチンは強力なLDLコレステロール作用を有するだけでなく、血管内皮細胞、平滑筋細胞に対する作用や抗炎症作用を含む多面的な抗動脈硬化作用が推測されています。
多くの症例においてスタチン1剤でLDLコレステロールは良好にコントロールされますが、効果不十分の場合には後述するエゼチミブやPCSK9阻害薬の併用が必要になることがあります。
副作用として消化器症状、横紋筋融解症、肝障害がありますが頻度としては高くありません。念の為に薬剤投与開始後2週間を目安に血液検査で副作用が出現していないか確認します。
代表的な薬剤としてアトルバスタチン(リピトール)、ロスバスタチン(クレストール)、リバロ(ピタバスタチン)があります。
エゼチニブ
小腸粘膜においてコレステロールの吸収を阻害して血中コレステロール濃度を低下させます。脂溶性ビタミンの吸収には影響を与えません。インスリン抵抗性改善や脂肪肝改善効果もあります。
スタチンで効果不十分な症例に対して併用することが多いです。アトルバスタチンやロスバスタチンとの配合剤があります。
エゼチニブに特異的な副作用は報告されていません。
PCSK9阻害薬(エボロクマブ;レパーサ)
この薬剤が登場して以来、脂質異常症に対する考えが大きく変わりました。家族性高コレステロール血症を含め、スタチンとエゼチニブに治療抵抗性であった高コレステロール血症をコントロールできるケースが出てきたのです。
作用機序は複雑ですがLDLを細胞内に取り込む作用があるLDL受容体を安定化させ、LDL低下作用を発揮します。
スタチンとの併用で約70%のLDLコレステロール低下作用を認めます。加えてコレステロール中性脂肪とは独立した動脈硬化危険因子であるリポ蛋白(a)低下作用があります。
家族性高コレステロール血症や従来の治療に抵抗性の高コレステロール血症で、心筋梗塞や脳梗塞を発症した高リスク症例に対して積極的に検討されます。
フィブラート系薬
中性脂肪が高いタイプに対する薬物療法の主役です。
中性脂肪だけが高い場合、まずはフィブラート系薬を使用します。コレステロールと中性脂肪の両方が高い場合、まずはスタチンを使用しますが、スタチンを使用しても中性脂肪が高い場合、フィブラート系薬の併用を考えます。
スタチンとフィブラート系薬を併用する場合、横紋筋融解症とそれに伴う腎機能障害を起こすことがあるため筋肉痛や脱力感に注意し、定期的な血液検査が必要です。併用前には処方目的や副作用について十分に説明し、万が一副作用が現れた場合にはすぐに受診していただきます。
治療の流れ
1. 初診 (初回の相談を受けます)
年齢や合併症の有無、健康診断などの血液検査データをもとに、検査プランや治療プランを立てます。検査の際には、必要に応じてレントゲン、血液検査、心電図検査、身長体重測定などを実施します。初回の診察で治療薬を処方することは多くありませんが、LDL-コレステロールや中性脂肪の値が極度に高い場合や心筋梗塞・脳梗塞などの合併症を有する場合、生活習慣の改善が難しい場合、患者様から薬物治療の希望がある場合などには、初回から治療薬を処方することがあります。
2. 再診1回目 (2週間後)
検査結果から得られた情報をもとに、初期診断と治療方針について説明します。薬物療法が望ましい場合には、患者様とよく相談の上、薬物療法を開始します。
3. 再診2回目 (2~4週間後)
血液検査でお薬の初回効果の判定を行います。治療効果は十分か、副作用が出ていないかを確認します。必要に応じて心エコー検査や頸動脈エコー検査を行うことがあります。
4. 再診3回目 (2~4週間後)
お薬の調整を実施します。
5. 再診4回目以降 (4~6週間毎)
適宜血液検査をおこない、お薬の調整を行います。数値が安定している場合は、3~6ヶ月ごとに血液検査を行います。
生活習慣の改善について
脂質異常症を指摘された場合、食生活の見直しが必要なことが多いです。揚げ物や外食・コンビニ食が多くないか、カロリーを取り過ぎていないかを確認します。
脂質が多い食品は避け、食物繊維の多い食品を選びましょう。甘いおやつやジュース、アルコールも控えめにしましょう。食事の改善と併せて、運動することも効果的です。運動する習慣がない場合は、1日30分の有酸素運動を毎日、難しい場合には週3回行うだけでも効果があります。
まとめ
当院では食事運動のアドバイス、薬物療法をするか否か、どういった薬剤を選択するかなど、患者さまと一緒に意思決定して治療を進めていきます。